犬の遺伝性疾患についての勘違いや誤解

犬の遺伝性疾患についての勘違いや誤解 

その1  犬の遺伝病ネットワーク代表 
                         今本成樹


今回は、犬の遺伝性疾患についての基本的な情報を書きます。
まずは、遺伝性疾患という言葉ですが、最初に「遺伝」という言葉が出てきます。遺伝とは?

これは、書かなくても何となく理解されているでしょう。
親から子へ受け継がれる特徴です。

犬であれば、例えば毛の色や身体的特徴も「遺伝」です。ただ、その中で、疾患に関与するものを遺伝性疾患と分類しています。
何でもかんでも遺伝が要因であるかのように考えられることもありますが、それは間違いです。

一方で、100%遺伝してしまうような疾患も存在します。
それでは、病気というものは、どのようにしておこるのか?
考えたことがありますか?
一番ざっくりとした説明をするなら 『病気の原因には大きくわけて環境要因と遺伝要因とがある。』 と、言えます。

環境的な要因というのは、一番わかりやすい例が感染症です。
しかし、これにも、一定の例外も存在します。例えば、特定の感染症にはかからない人もいます。
この中にも遺伝的な要因が含まれる(体質の遺伝)こともあります。
そのほかにもほぼ環境的な要因としては、アルコール性肝炎とかもそこに含まれます。これも、酒に強い人がいて、90歳になっても酒浸りで元気な人もいます。
私の祖父が、いまだにいい感じで毎日お酒を飲んでおりますが、検査で引っかかってくることはありません。これもアルコール分解酵素についての遺伝的な要因が明らかになっていたりで、体質の遺伝も明らかになってきています。

近年の遺伝医学の進歩は、多くの疾患において遺伝要因が関与していることを明らかにしてきました。
環境因子については、複数の体質や免疫力の遺伝が絡むことがわかっており、多因子遺伝疾患という位置づけです。
人医学の研究では、国内では信州大学で遺伝学の研究室があり大きな成果が上がっています。

動物の分野でも国内のいくつかの大学で、特定の疾患に対しては研究されています。今までは、遺伝性疾患というものは、「めったにない、まれな疾患」と考えられてきました。
健康な我々には関係のないものという認識です。
当然、動物の世界では、「健康な犬には関係がないものである。」という認識が強いですが、これはもう平成の時代に置いてきていいと思います。
次の時代の『令和の医療』として、飼い主さんが望むのは、人水準の情報と医療レベルです。
当然、それは遺伝学も含まれます。そう考えると、遺伝学の知識は必要不可欠になるのではないでしょうか?そう考えられる理由は、人は少なくとも60%は死ぬまでに遺伝的な病気にかかると考えられているからです。
すなわち遺伝性疾患は決して特殊なものではなく、全ての人に対してその影響がある可能性が強いのです。
これには私も同意できます。犬の血統を見ながら調査をしてきた経験から考えると、特定の疾患が特定の年齢で発症する家系も存在しています。
しかし、動物の分野では、この流れに歯止めをかけることはできませんでした。

繁殖場からペットショップに行き、その後、飼い主さんにわたる。
そしてその疾患が出てくるのが10歳だとすれば、すでにその情報を繁殖業者にフィードバックしても、その親犬の子供、孫、ひ孫くらいまでもが交配に使われていることが多いからです。
多くの遺伝性疾患の調査には家計調査は必須です。
これを遺伝子検査だけで、犬の遺伝性疾患をなくそうとするのは、不可能です。

一方で、撲滅可能な疾患もあります。 それは、一つの原因遺伝子のみで発症する疾患です。例えば、ボーダーコリーのセロイドリポフスチン症や柴犬で2018年にも死亡例の出たGM1ガングリオシドーシスが例として挙げられるでしょう。

この疾患は、遺伝子検査をすれば防げたものです。
両親が、この疾患に関与する遺伝子を持つかどうかの検査をしてから交配することで発症は防げます。
遺伝子は、両親から一つもらってきます。父犬から一つ、母犬から一つです。
そのどちらにも病気になる遺伝子が入ることで、発症します。
それが、常染色体劣性遺伝と呼ばれるものです。

きっと、父犬も母犬も元気で病気を発症していなかったというのであれば、
この父犬や母犬は、その両親からは、病気の遺伝子をもらってきてないのでしょう。もしくは、病気の遺伝子を一つだけもらってきたのでしょう。

常染色体劣性遺伝は、両親から一つずつ病気の遺伝子をもらってこない限り発症しません。
1つだけであれば症状は出ません。だから外見では分かりません。
このように、原因としてわかっている遺伝性疾患もあります。
こういった疾患には遺伝子検査が有効です。
しかし、一方で、遺伝子の突然変異で起こる疾患もあります。
これについては、現段階では犬ではその多くがまだ判明していません。

また、先ほども述べましたが、ある程度の年齢になってから発症するものについては、その血統上の調査が必要です。
人であれば家系をたどればわかります。交配の時に元気だったからというだけでは、遺伝性疾患がないとは言えません。
したがって、何世代にもわたり観察を繰り返して、この家系は長生きで病気もないよね。ということを観察して初めてこの家系は比較的健康ですねと言えます。

その家系において優性で遺伝する疾患があれば、家系調査をすると比較的高頻度で発症します。
現段階の動物医療では、家系調査をしてそれを反映することはできていません。一方で、数少ない繁殖業者さんでは、販売後もその飼い主さんに連絡を取り、疾患の発生状況などを調査して、自分のところの交配計画に反映されている方もいます。

現段階では、単一遺伝子の疾患で遺伝子検査が可能な疾患についての遺伝子検査は、遺伝性疾患をなくすために有効であるといえますが、
他にも原因につながる遺伝子の異常があったり、環境的な要因からもその発症が知られている疾患については、遺伝子検査だけでは発症を減少させられないのが現状です。

どうしても遺伝病という言葉から、遺伝するという認識になっていますが、
遺伝子が影響する疾患であるという認識で考えると、
『遺伝子病』 という単語が適切ではないかと思います。

では、次回、この続きを書こうかと思います。

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